2024年4月の相続登記義務化から一定の期間が経ち、制度の背景や手続き内容を改めて確認したいという声も聞かれるようになりました。
これまで、相続登記にはペナルティがなく、長期間登記されずに放置されることで所有者不明土地が増えてしまったという背景があります。
本記事では、そもそも相続登記がどのような登記なのか、相続登記義務化の背景、また同時に始まった相続人申告登記制度について解説します。
相続登記とは
相続が発生すれば相続人は自動的に不動産の所有者になるわけではありません。
相続人が不動産の所有権を主張できるようになるには、相続を原因とする所有権移転登記が必要です。この登記手続きを相続登記と呼びます。
相続による不動産の所有権移転を登記すること
不動産の所有者に関する情報は、法務局で管理されている登記簿に記録されています。
売買や相続、遺贈などによって所有者が変わる場合は、元の所有者から新しい所有者に名義を変更する所有権移転登記が必要です。
このうち、相続を原因として被相続人(亡くなった方)から相続人に不動産の名義を変更する手続きを相続登記といいます。たとえば、父親が亡くなり、長男が不動産を相続する場合は、長男が相続登記する必要があります。
相続登記しないと第三者に権利を主張できない
相続登記しなくても所有権移転自体は行われます。
しかし、民法において、相続登記しなければ、法定相続分を超える部分について第三者に対抗できないというルールがあります。
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、
次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
たとえ、遺言状で特定の人に不動産をすべて相続させる旨があっても、複数の相続人がいる場合、相続登記しなければ自己の法定相続分を超える部分の権利を主張できません。
そのため、遺言や遺産分割協議などの相続方法に関わらず、不動産を相続した相続人は速やかに相続登記を行う必要があります。
相続登記しないと相続後に売却できない
相続登記しない大きなデメリットは売却できないことです。
不動産は登記簿上の名義人でなければ売却できません。仮に、親子や相続人であっても名義人でない人は売却できないのです。不動産売買においては、売却後に代金の決済とともに売主から買主に名義を変更する所有権移転登記を行います。所有権移転登記は、買主と売主の共同申請で行うものです。
しかし、売主が登記簿上の所有者の名義と一致しなければ、登記手続きができません。
そもそも、登記簿上の名義人と売主が一致しない不動産は、不動産会社や買主から不審がられて売却を進められないでしょう。
相続登記せずに長期間放置されると権利関係が複雑になる
相続登記しないデメリットに権利関係が複雑になることも挙げられます。
たとえば、子ども2人で相続した不動産の相続登記を放置し、その子どものうち1人が亡くなったとします。
この場合、亡くなった子どもが相続した分の所有権は、その子どもが相続することになります。これを繰り返していると不動産の相続人が膨れ上がります。この状態で、相続登記や売却を進めようとしても、相続人が誰か分からない、連絡が取れないなどで全員の合意を取ることが難しくなるのです。
相続登記手続きは、相続した直後であればそれほど難しい手続きではありません。しかし、長期間放置することで合意形成や書類の収集などが煩雑化し、手に負えない事態になりかねないのです。
2024年4月より実施された相続登記の義務化とは

従来、相続登記は期限がなく登記するかは相続人の任意とされていました。
しかし、2024年4月1日より相続登記は義務化されています。
相続登記を実施しないとペナルティが科される
相続登記の義務化により、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内」という登記申請期限が設けられました。
分かりやすく言えば、自分が相続人であること、相続した財産の中に不動産があることを知った日から3年です。
正当な理由なく登記を怠った場合は10万円以下の過料が科せられます。
なお、期限内に登記申請できない正当な理由としては、相続人が極めて多く書類収集や相続人把握に時間を要するケース、遺言の有効性について争いがあるケースなどが該当するとされています。
相続登記義務化の背景
相続登記義務化は所有者不明土地の問題解消を目的として行われます。
所有者不明土地とは、登記簿上の所有者が直ちに判明できない、もしくは判明できても連絡が取れない土地です。所有者不明土地は、公共事業は復興事業などの妨げになり、さらに放置されることで周辺環境への悪影響も及ぼします。また所有者を判明するにも膨大な手間や費用が必要です。近年この所有者不明土地が増加し問題が深刻化しています。
そこで、所有者不明土地が増加する原因である相続登記の放置を防ぐため、今回相続登記の義務化が行われたのです。なお、所有者不明土地の問題解消として、相続登記の義務化に続き、2026年4月より住所変更登記も義務化されます。これにより、登記簿上の所有者の氏名・住所と実際の氏名・現住所が異なる場合も登記手続きが必要となるので注意しましょう。
過去の未登記もペナルティ対象になる?
相続登記の義務化においては、2024年4月1日以前に相続した不動産の未登記も義務の対象となります。
2024年4月1日以前の相続については施行日後3年の猶予が設けられており、2027年3月31日までに登記を行えば、過料の対象にはなりません。
ただし、正当な理由なく登記を怠ると、こちらも10万円以下の過料の恐れがあります。過去に不動産を相続し相続登記していない場合、速やかに登記申請するようにしましょう。
期限内の相続登記が難しい場合は相続人申告登記制度を利用できるようになった

相続登記に期限があるとはいえ、相続人が多い、遺産分割で揉めているなど期限内の相続登記が難しいケースもあるでしょう。
そのような場合、相続人申告登記制度を活用することでペナルティを避けることが可能です。
主な確認資料とチェックポイントは以下の通りです。
相続登記が放置されることが多い理由
これまで相続登記が放置されている主な理由としては、「手続きの煩雑さ」と「費用」が挙げられます。
相続登記するには、相続人全員の戸籍謄本などさまざまな書類が必要となり、申請書の作成や書類収集、法務局での手続きなど時間や労力がかかります。また、登記申請時には登録免許税として、不動産評価額×0.4%の費用が必要です。
仮に、評価額が1,000万円なら4万円かかります。司法書士に手続きを依頼すると報酬の支払いも必要になります。一方、相続登記はそのまま住むだけなら行わなくても支障はありません。そのため、手間や費用をかけたくないと相続登記が行われないケースが珍しくないのです。
相続人申告登記とは
相続人申告登記とは、対象不動産についての相続人であることを公示する制度です。
不動産の相続人であることを法務局に申し出ることで、簡易的に相続登記義務を履行したとみなされペナルティを免れます。
相続人申告登記の特徴は以下のとおりです。
● 相続人が複数いても単独で申請できる
● 登録免許税不要
● 遺産分割協議成立前でも申請できる
● オンライン申請可能(押印や電子署名は求められない)
相続登記に比べ手間や費用をおさえスピーディに手続きできる点が大きなメリットと言えます。
相続人申告登記することで相続登記のペナルティを避けられるため、遺産分割協議が長引いているなどで期限内の相続登記が難しい場合の有効な選択肢となります。なお、相続人申告登記で義務を履行したとみなされるのは申出人のみです。相続人のうち一人が相続人申告登記しても、申出していない人は義務を履行したとみなされません。そのため、相続人が複数いる場合は、それぞれで相続人申告登記しなければならない点には注意しましょう。
相続人申告登記しても相続登記は必要になる
相続人申告登記で気を付けなければならない点が、相続人申告登記は相続登記と異なり所有権移転は伴わない登記という点です。
あくまで「不動産の相続人であること」を登記する手続きであり、所有権の取得にはなりません。相続人申告登記した場合でも、最終的には相続人登記が必要になります。期限内にスムーズに相続登記できる場合は、相続人申告登記は二度手間といえます。相続手続きの進捗を考慮して手続きするか判断すると良いでしょう。
まとめ|相続登記義務化とその背景を理解しておこう
2024年に相続登記が義務化され、不動産の取得から3年以内に登記申請しなければ10万円以下の過料が科せられる恐れがあります。
また、相続登記を放置すると売却ができない、時間の経過で権利関係が複雑になるなどのデメリットも生じます。
そのため、不動産を相続した場合は、速やかに相続登記することが大切です。
遺産分割協議に時間がかかっているなど期限内の申請が難しい場合は、相続人申告登記によりペナルティを免れられます。
不動産を相続した場合の登記ルールを理解し、適切に申請するようにしましょう。